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October 11, 2015

村上春樹 「独立器官」

株式会社 文芸春秋社から2014年4月20日発行された短編集「女のいない男たち」に収められたもの。

今年も村上さんがノーベル文学賞をとれなかったと話題になっているが、物理学・化学、生理学・医学など研究成果が明白な分野と違って個人的な嗜好の違いも大きい文学で受賞することの意味はそれほど大きくはないと思う。
少々難解な言い回しやストーリー展開が多いけれど読後に独特の余韻を与えてくれる村上さんは私にとって好きな作家だと言えるし、多くのファンの方々もそれで十分だと思っているだろう。

難解な物語の多いこの人の作品の中でもこの短編集は比較的平易な表現が多く、ある意味肩透かしを食らった思いがするが相変わらず巧みな比喩をちりばめた文章は達人の技ともいえるもので、この村上節に酔うのがファンとしての楽しみかもしれない。

この物語は、独身でも常に複数の女性と巧みな関係を保ち、何不自由なく人生を謳歌していた中年男が初めてと言っていい恋を知ってからの苦悩と破滅を描いたもの。
彼女との不安定な関係に身を裂かれるような思いをしているとき、自分と同じく何不自由なく暮らしていた男がアウシュビッツに連行された本を読み、すべてを無くす恐怖感を味わってしまう。
その後、夫がありながら男と逢瀬を重ねていた女は結局別の若い男に走り、本を読んで以来鬱状態に陥っていた男は自分をこの世から無くそうとする。

何かに不安を覚えた者がその不安をさらに助長するような負の情報を得ていわゆるスパイラルダウンしてしまった話だが、現実でも仮想の話を過去の実例などから類推して不安を募らせていくということはあると思う。
しかし、そんなことを考える人はこの話の主人公のように実際には不自由なく暮らしているのであって実際に現実の悩みを抱えている人は余計な不安を抱え込む余裕などはないのだ。
重い病気にかかっている人は他のどんなことより今この病が治ってほしいと切に願うだろうし、この間の災害などで家が流されたり被害に遭われた方々は一刻も早く元のような普通の暮らしに戻りたいと思われているはずだ。

私自身、日頃考えることはまず自身の健康維持、次に配偶者の健康維持、そして息子たちの幸せだし配偶者は家計の維持に懸命だ。ましてや国家レベルの問題にまで思いを馳せる余裕はない。


 
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