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May 25, 2015

「最強の相棒」第7回

 翌日の日曜日はいつもとは違う式場での撮影だった。とても仕事をする気分ではなかったけれど昨日無理やり休んだのでそうはいかない。撮影の準備をしていると後ろから声を掛けられた。
「あれ、今日のスチール担当は綾やった?」振り向くと久保だった。
「うん、都合で昨日と替わったんだ」今、彼とは話したくない。それに昨日泣いた跡がまだ少し残っているのであまり顔を見ないようにして答えた。
「久しぶりやな」彼はほかの人とは標準語を使うのに、綾と話すときは関西弁だ。
「ここが、オレの普段の仕事場で、まあホームグラウンドやな」

 綾は、何もなかったようないつもののんびりとした彼の声を聞いて重かった気持ちが少しほぐれた。
「ホンマ、3ヶ月くらい会ってないよなぁ。元気やったか?」
「まあね」心に少し痛みを感じながら平静を装って答えたが、何となく彼に悪いと思う気持ちがある。
「今日、終わったら久しぶりに行かへんか?」彼は綾の気持ちなどお構いなく飲みに誘ってきた。
今日は珍しく午前中だけの簡単な式だから撮影も少なく、その気になれば夕方には一段落するだろう。石を飲みこんだような重くるしさを発散したい気持ちもあったので、結局その日の夜に飲む約束をした。彼も超特急で仕上げるらしい。

 以前よく行った居酒屋で7時ころから飲み始めたが、もうもう10月なのでビールは1杯だけにし、そのあとは珍しく日本酒を頼んだ。彼は、燗をした酒をグラスに注いで飲む綾を見て驚いた顔をしたが、すぐに自分も同じようにして飲み始めた。
「秋になると燗酒がおいしいな」いつものとぼけたような顔で綾に笑いかける。
その途端、綾の目から涙がこぼれ落ちた。

 彼はちらりと綾の顔を見て、少なくなった彼女のグラスに酒を注ぐと「もう少しいけるよな?」と言って「お酒2本!」と追加の注文をした。
「あのさ、ちょっと聞いてくれる」酔いが回ってきた綾は、2本目の日本酒を飲みながら近藤と付き合っていたことと昨日の出来事をポツリポツリと語り始めた。

 彼は「ふーん」とか「そうなんや」とか相槌を打ちながら綾の話を最後まで聞いてくれたが、話し終えた綾の顔を見て真面目な顔で言った。
「良かったやんか」
「なにがいいのよ!」
「いやな、もしその男と結婚でもしてたら一生嫌な思いをすることになるで。早々と本性を見せてくれて良かった、いうことや。ホンマに良かった」彼は、心底良かったという顔をしている。
『人の気持ちも分からずに』と綾は文句を言おうとしたが、彼のうれしそうな顔を見ているうちにもやもやしていた気持ちが吹っ切れていくのが分かった。
 お互い3本目を飲みだす頃には仕事やサッカーの話をするようになり、彼の本当か嘘か分からないような馬鹿話に笑い転げていくうち綾は彼の言うとおり『良かったんだ』と思えるようになっていた。

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