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May 26, 2015

「最強の相棒」第8回

 それからは、綾は休みの日に久保とデートをするようになった。彼も綾に合わせて休みを取っているみたいだ。デートといっても彼は車を持っていないのでお昼をファミレスで食べてから街の写真展や美術館に行くことが多い。夜はたいてい居酒屋で飲んで写真の話をするが、学校の講義で習っていたはずなのに彼の技術的な話は新鮮で分かり易い。見かけによらずよく勉強していることに感心する。

 12月に入り、街がクリスマス一色になった頃に珍しく高級レストランで食事をすることになった。
「へえ、どういう風の吹き回し?」
「いや、いつも居酒屋ばかりなんで今日は奮発したんや」照れながら店に入っていく。
彼はこういう店には慣れないらしくぎこちなく食事をしていたが、デザートを食べる時になって急に真面目な顔になって言った。

「おれな、今の仕事辞めようかと思ってるんや」
「えっ、どうして、何かあったの?」綾は驚いて訊きかえす。
「いや、神戸の親父も還暦過ぎて母親が亡くなってからは体調がもうひとつみたいやし、そろそろ帰って面倒を見ようかな、なんて」
「じゃ、神戸で仕事探すの?」
「ウチの家は昔からある写真館でな、おれが跡継ごうと思う」

 母親は2年前に亡くなったのだという。初めて聞く話ばかりだったが、綾は周りの灯りが消えていくような心細い気持ちになった。
デートを重ねるようになってから、綾の考え方や気持ちをよく理解してくれる彼のことが少しずつ好きになっていたのだ。このままずっと彼と付き合おうと思っていた。
「綾、どないしたん?」彼が心配そうな顔で彼女の顔を見つめていた。
気が付くとさっきからスプーンを持ったまま俯いていた。
「ううん、何でもない、それで、いつ会社辞めるの?」
「まだいつとは決めてないけれど、神戸で一緒に仕事ができる相手を見つけてからと思ってる」
「誰か心当たりでもあるの?」

 その時、彼がじっと綾の目を見て言った。
「綾、一緒に神戸に来てくれへんか?」
「えっ、どういうこと?」思わず大きな声を出してしまった。
「僕と一緒に仕事を、いや、ずっとそばに居てほしい」普段と全く違う真剣な顔だった。
瞬間、綾の頭の中が真っ白になった。ずっとそばに居るって、つまり、プロポーズなのか。しばらくの間努めて冷静になって考えた。そして、ゆっくりと、しかしはっきりと彼に言った。
「あのね、そんな大事なこと、こんな場所でいきなり切り出すって失礼じゃない!」
「それに私たち、まだ恋人同士というわけでもないでしょ!」
「そやな、分かった、急にこんなこと言いだして悪かった」彼は素直にあやまった。

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