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May 29, 2015

「最強の相棒」第11回

 その日、家に帰ると久美子が来ていた。
孝は正式に久美子の家に挨拶に行ってきたという。
綾は、彼女と話をしているとき、少し関西弁が混じることに気付いた。
「久美子さん、お生まれはどちら?」
「京都です。小学校3年の時に転向して来たんです。だから言葉がおかしいってよくからかわれました」確かに言葉の違いもあっていじめられたんだろうなと綾は思った。

「言葉もそうですが、自分と違うからと嫌ったり受け入れようとしないことが差別となっていじめにつながるんです」
彼女は、おっとりとした見かけによらずはっきりとものを言う。
確かに、それを体験してきた彼女の言うことには説得力があった。

「小学校でいじめた同級生が、大学生になってから会うと、京都はいいねって言うんですよ」ちょっと皮肉っぽく笑う。
「でも、いじめられたおかげで孝さんに巡り合うことが出来たんです。今はいじめられたことに感謝しています」
彼女は、いじめとか差別は人の心の弱さの表れだという。さらに、自分の先祖の自慢をしたりするのも自分をよく見せたいと思う一種のコンプレックスだという。
綾は近藤の母親の顔を思い出して大きくうなずいた。

「人の本当の強さというのは、容貌とか言葉とか地位などにとらわれず、どれだけ相手を理解し、価値を見いだすかにあると思います」
そこまで言ってから、さすがに恥ずかしそうに笑った。

 綾は、久美子が大学で社会心理学を学んだと聞いて納得したが、さらに孝に出会ってから就職を止めて大学院に進んだという。
二人だけだったので綾は思い切って訊いてみた。
「もし、孝が海外へ転勤とかなったら大学院はやめるの?」
「もちろん、やめて付いて行きます。孝さんの行く所なら地球の果てでも付いて行きます。私は孝さんの相棒ですから」きっぱりと言い切った。

 綾は、ていねいな言葉遣いをする久美子の口から相棒という強い言葉が出たことに驚いた。もとは昔の駕籠の担ぎ手のことをいい、二人揃わなければ成り立たない関係の例えだ。
『あの娘(こ)は、孝を信じ、ずっとそばにいて力になると決めたんだ』縁あって結ばれた男女の絆の強さを知った綾は、久保への答えを出そうと決断した。

 それから2週間経った月曜日の朝、久保がそろそろ店を開けようとした時、携帯が鳴った。綾だ。
「おはよう、お父さん、どんな具合?」
「ああ、病院にリハビリに行った。けっこう元気やで」
「一人で大変だね。大丈夫?」
「ホンマ、一人で大変や、でもな綾、これから店を開けてすぐ予約の撮影があるねん。悪いけど電話切るで」久保は携帯をしまって店のシャッターを開けた。
目の前にキャリーバッグを持った綾が立っていた。
「ほら、最強の相棒が来たよ」


「最強の相棒」  ― 完 ―

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Comments

narkejpさん
毎日おもしろく読んでいただいてうれしいです。
綾はスマホで彼の住所を確認して行きついたので第6回にスマホを持っていることをあえて書いています。
ちなみに私はまだガラケーです(笑)

Posted by: よし | May 30, 2015 at 09:09 AM

今回も、毎朝の楽しみに、おもしろく読みました。良かったです~。転居してしまうとそれっきりになるのは昔の話で、携帯電話の時代の今は、転居してもそれっきりにはならないのですね。何を今さら!と笑われそうなものですが、そのあたりを再認識いたしました。

Posted by: narkejp | May 30, 2015 at 08:49 AM

HABABIさん

個人のブログ小説とはいえせっかく書くのですからいつも何らかのメッセージを入れようと思っています。
私は弱者や世間的にマイナーと見られがちな人に焦点を当てた物語を書こうと思っています。
重くなく、独りよがりでない物語を軽く読んでいただければ幸甚です。

>読んだ後に爽やかな気分になりました。
嬉しいです。

Posted by: よし | May 29, 2015 at 09:39 PM

今回も、読んだ後に爽やかな気分になりました。
どうも、ありがとうございました。

Posted by: HABABI | May 29, 2015 at 08:41 PM

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