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May 27, 2015

「最強の相棒」第9回

 とりあえず食事を終えてから一緒に店を出たが、綾の思いは複雑だった。
告白されたのはうれしいけれど、あまりにもデリカシーが無いと思う。もう少し前から好きだと言ってくれたり、雰囲気のある場所でキスをされたり、場合によっては彼の部屋で一緒に過ごしたりといった恋人の段階が欲しかった。
そして、プロポーズの前に自分の都合が優先したのも許せない。

人通りの少ないところに来ると、綾はあらためて彼に文句を言った。
「久保クンのこと、いい人だと思ってるよ。でも今まで私のことをどう思っているか何も言ってくれてないじゃない。自分が神戸に帰るからって、たまたまそばに居た私を選んだだけでしょ。勝手だよ」
「そんな、急な思い付きで言ったんじゃないよ。前から綾のこといいなと思っていたんだ」いつもの関西弁ではなく、ちゃんと標準語で弁解するのがなぜかおかしい。

「だったら、私のどこがいいのかちゃんと言ってくれる?」
「どこって、言われてもな」久保は一瞬口ごもったが、綾が怖い顔をしてにらんでいるので慌てて答えだした。「まず、仕事熱心で、何にでも前向きで真剣なこと、体力もあるし・・・」
「そんなことじゃなくて、もっと肝心なことをはっきりと言って!」綾は真剣だ。
「分かった、オレな、綾のこと全部好きやねん、全部や、丸ごと好きや!」必死になった久保はいつもの関西弁になっていた。

 厳しく対応した綾だったが、いつもの彼と違う真剣な告白を聞いてさすがに顔が赤くなった。うれしかった。でも簡単に答えられる問題でもない。
「久保クンの気持ち、よく分かりました。でも、今日は帰ります。ごちそうさまでした」それだけ言うと彼から離れて駅に向かった。
電車に乗るとすぐに彼からメールが入った。
『前から好きだった。真面目な話だからちゃんと考えてほしい』
綾はしばらく考えてから返事をした。
『わたしのことをそこまで思ってくれてうれしいけれど、大事なことだからゆっくり考えて返事します』

久保の真剣さに綾の気持ちは大きく揺らいだ。ずっと前から知っているけれど、頻繁にデートを重ねるようになってからまだ3ヶ月だ。告白されてすぐに返事ができるはずがない。そのうえ神戸に行くなんてことは考えてもみなかった。この時期の仕事は特に忙しくそのまま綾は答えを出せずにいた。そして彼からも連絡がないまま1週間が過ぎた。

 28日に年内最後の仕事を終えて家に帰ると玄関に女性の靴があった。誰だろうと思いながらリビングに入るとソファに弟の孝と若い女性が並んで座っていた。
「初めまして、永井久美子と申します」女性は立ち上がって丁寧に挨拶をした。
「姉の綾です。この人は、あのぉ、僕のパートナーに・・・」孝が綾を紹介した後は小さな声になったとき、向かいに座っていた母が「孝の婚約者ですよ」と大きな声で言ったので孝の顔が真っ赤になる。

 そうか、春ごろから彼女がいるらしいとは思っていたがもう結婚するのか。
「初めまして。綾です。おめでとう!」あいさつしながら彼女をじっくり観察した。
若い、そして本当にきれいな娘だった。化粧も薄く、清楚でどこのお嬢様だろうと思った。結婚式で大勢の花嫁を見てきたけれどこんなに感じの良い女性はいなかった。
『孝、やるじゃん!』綾は心の中で祝福してやった。

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