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May 22, 2015

「最強の相棒」第5回

「さっそくですが、あなたはどういうお気持ちで浩とお付き合いされているのかしら?」
「いや、だから、それは僕の方から・・・」彼がしゃべろうとするのを遮って続ける。
「二人でどういうお話になっているのかは知りませんが、まさか結婚などということはありませんよね」
「ママ、綾さんに失礼じゃないか」
「浩さんは黙ってなさい!」女性は彼の方を見向きもせずに一喝すると話を続けた。

「浩から突然、あなたと付き合っている、と聞かされて私どもはとても困惑しております」
「失礼ながら、まだ深い関係にはなっていないと聞いて少しは安心しているのですが、それならばここできっぱりとお付き合いを止めていただくのがお互いのためだと思い、こうして来ました」
「浩が何を言ったかは存じませんが、私どもではお付き合いはちゃんとしたお相手を選ぶことから始まるのです」

 綾は、ただあっけにとられて浩の母親の顔を見ていた。
このひと、自分の名前も名乗らずに何を一方的に言うのだろう。彼も、母親に一喝されてからは借りてきた猫のようになって黙ってうつむいたままだ。
女性の一方的な話が途切れたときに綾はやっと口を開いた。

「あの、私たちは時々会ってお食事はしますが結婚の約束など一切しておりません。どうかご安心ください」できるだけ穏やかな口調で告げる。
「まあ、そうでしたか。それはようございました。こうやって来た甲斐がありました」
女性はホッとした顔になり、やっと自己紹介を始めた。
「遅くなりました。わたくし近藤勝江と申します。先ほどは失礼いたしました」

 初めて笑顔になった彼女はいきなりの詰問の非礼を詫び、さらに話を続けた。
「近藤の家は、江戸時代から続く立派な武士の家系でございましたが、明治になってから貿易業に転身したのが成功しましてね、主人が現在の会社の5代目社長ですの。江戸時代から数えると15代続く家系でございますのよ」
「だから、浩さんが今後ちゃんとした人を迎えれば近藤家の16代目になりますの」

 綾は、女性の話を黙って聞いていたが、自分も大人になったなと実感した。
いきなり、結婚する気なのか、とか深い関係じゃなくて安心した、とか言われて以前の自分なら屈辱と恥ずかしさでその場から逃げただろう。

 重い機材を担いで行った現場で遅くまで働いてもクライアントのダメ出しひとつでまたやり直したことが何回あっただろう。男でも根を上げそうなきつい職場を経験して我ながら強くなったと思う。
しかし、綾と自分たちは格の違う人間なのだと言われたことにはさすがに腹が立ち、女性が満足しきって家系の自慢話を終えたとき、ひとこと返してしまった。

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