« 「最強の相棒」第9回 | Main | 「最強の相棒」第11回 »

May 28, 2015

「最強の相棒」第10回

 しばらく話をして、帰るという久美子を玄関まで見送るとき、彼女が軽く左足を引きずることに気が付いた。
「小さい時に交通事故に遭ったんだって」
帰った後、母がそれだけ言って目を伏せた。
「でも、いい娘(こ)だよねぇ。孝は幸せ者だよ」綾は一目で久美子が気に入ったが、母から孝と久美子のなれそめを聞いたあとは本当に感動してしまった。
孝がいじめられていた小学生の久美子を助けて、その後大人になった二人が再会して結婚するってドラマみたいだ。
「縁なのよね。結婚って結局縁だと思うのよ」母はしんみりと語った。

 自分の部屋に入ってから綾は久保とのことを振り返ってみた。確かに、専門学校の時から学科は違うのによく遊んだり飲んだりした。
のんびり、ふんわりした男なので印象が薄かったけれど、何年振りかで会っても気負わずさらりと話しが出来るし、デートを重ねるようになってからは彼と一緒に居ることに安心感を覚えていた。

 近藤とのことを話したあと、彼が率直に良かったと喜んでくれて、心の重しが取れたようになった綾は、もし彼が誘えばその気になっていたかもしれない。でも、彼はそうしなかった。ちゃんと家の近くまで送ってくれた。しかし、それ以上の発展も無く、先日告白されたのだ。
急だったので照れくささもあっていじわるく彼にあたったけれど内心は本当にうれしかった。そして彼が優柔不断だったわけではなく、自分のことを本当に大事に思ってくれていたこともよく分かった。
しかし、言葉の違う関西に行くことはためらわれた。もう少し考えようと思う。
結局、彼に連絡できないまま新年を迎えた。

 新年最初の仕事は、久保がホームグラウンドだと言っていた式場だった。会ったらなんと言おうかと考えながら機材を揃えていたら、やって来たビデオの担当者は久保よりずっと年配の男だった。
「今日は久保さんじゃないんですね」
「ああ、あいつ、去年一杯で辞めたよ」
「ええ!」驚く綾の顔を見て相手は話を続けた。
「急に父親の具合が悪くなったとかで、年内で辞めたいと言い出してさ、おかげで僕も久しぶりでビデオを回す羽目になったんだ。困ったよ」と愚痴る。

 その日仕事が終わってからすぐに彼に電話をした。「話、聞いたよ。大変だね」
「ああ、綾と最後に会った次の日にオヤジが倒れたと電話があって、急いで神戸に帰ったんや」
「お父さん、大丈夫なの?」
「うん、軽い脳梗塞やけど、店にいたお客さんがすぐ救急車を呼んでくれて、手当てが早かったので右手にちょっとしびれが残る程度で済んだ」
「じゃ、写真館の仕事は?」
「まあ、オレも素人と違うから何とかやってる」
「がんばってね」綾は電話を切ってから、彼がもう自分の近くには居ないのだということを痛感した。

|

« 「最強の相棒」第9回 | Main | 「最強の相棒」第11回 »

ブログ小説」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 「最強の相棒」第9回 | Main | 「最強の相棒」第11回 »