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December 15, 2014

「夢」 第2回

 クリスマスが近くなった街は、日が暮れて一層華やかな雰囲気に包まれていた。
孝は、さっき買ったばかりの財布を内ポケットから取り出すと改めて明るいショーウィンドウの下でじっくりと眺めた。いままでのボロ財布とは比べ物にならない。
来年は社会人になるのだから、新しい財布を買おうと決めていたのでデパートで思い切ってブランド品を買ったのだ。まだ新しい皮の香りがなんともいえず、思わず笑みがこぼれる。

 財布をポケットにしまおうとしたとき、手が滑って歩道に落としてしまった。慌ててかがみこんで拾おうとしたら横から白い犬が走ってきて財布をくわえて逃げた。
「待て!」孝は猛然と犬を追いかけた。
冗談じゃない、現金は少ないけれど免許証とか定期とか学生証とか大事なカード類が入っているのだ。200メートルほど先にある公園まで追いかけたが、その時には犬の姿は消えていた。しばらく公園の中を探したが犬も財布も見つからない。

「参ったなぁ。買ったばかりなのに」
警察に届けるしかないか、と考えていたらベンチに座っていた少女が立ち上がり、少し足を引きずるようにしてこちらの方にやってきた。白いマフラーをしている。

「探しているのはこの財布でしょうか?」少女は彼の財布を差し出した。
ほっそりとしているので少女かと思ったが、よく見ると高校生ぐらいだろうか。
透明感のある顔立ちをしている。澄んだ目が印象的だ。
「あっ、ありがとう。どこにありました?」
「ベンチの近くで見つけました。そのあとすぐにあなたが入ってきて何か探しているので、これかなと」

 とにかくホッとして財布を受け取った。犬の歯形もよだれも付いてなく中身もそのままだった。『よかった』安心して改めて彼女を見た。どこかで見た記憶があるが思い出せない。彼女はさっきから彼の顔をじっと見つめている。
「ありがとう、さよなら」あまり見つめられるので恥ずかしくなり、もう1度礼を言ってからその場を後にしたが、家に帰ってからも真剣に自分を見つめる彼女の顔が目に焼き付いて離れなかった。

『せっかく会えたのに』久美子は、彼が去っていくのをがっかりして見送ると、公園の後ろのほうにゆっくりと歩いて行った。
でも、ここに来ればきっとまた会えることを確信した彼女は、高校を卒業してからも夕方にはこの公園に来られるように近くの女子大に進学した。

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