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December 20, 2014

「夢」 第7回 

 孝は、目の前の彼女をじっと見た。
化粧気も無く、透明感のある顔立ちと真剣に彼を見つめる澄んだ目を見たとき、吸い込まれそうな不思議な感覚を覚えた。
「財布を拾っていただいたのは確か6年前でしたね」彼女を見つめながら言った。
「ええ、でもその前にもあなたとお会いしているんですよ」
「11年前、まだ小学生だったとき、男の子たちにいじめられていたのをあなたが助けてくれたんです」
11年前というと、彼は高校2年生だった。
「そうか、あの時の女の子だ」思い出した。いじめっ子を怒鳴って追い払ったことがあった。
「でも、そのあと、この近くに引っ越してきたのです」
「わたし、あなたが公園に来る夢をよく見るんです。だからここに来れば会えると思っていました」
「6年前に公園で会ったときは本当にびっくりしました。とてもうれしかったけれど、あなたは財布に気を取られて私を思い出さなかった」
彼女は語りながらすこしだけうらめし気な顔をした。
「ごめんなさい、昨日も夢を見たんですか?」
「ええ、だから朝からベンチに座っていたんです」

朝から自分を待っていたという言葉が、彼の心に大きく響いた。
この人は6年間いやひょっとして11年も自分のことを待っていたのだろうか。
そのとき、久美子のお腹が小さく鳴った。『恥ずかしい・・・』顔が真っ赤になる。
彼は聞こえなかったふりをして「何か食べましょう。おなかが空きましたね」と言うと彼女の手を優しく取り、ゆっくり公園の外へと歩き出した。

 その年の12月、もうすぐクリスマスだという日曜日、レストランの奥まったテーブルに二人は座っていた。料理のコースもほぼ終わり、目の前に小さなケーキが置かれている。
孝は、ポケットから小さな箱を取り出して久美子の前に置いた。
「開けてみて」
彼に言われて蓋を開ける。
エンゲージリングだった。
「ずっと、僕のそばにいてほしい」久美子を見つめる孝の目は真剣だった。
はい、と言おうとしたが、涙がこみあげてきて声にならない。
久美子は、返事の代わりにリングを指にはめると最高の笑顔で彼に見せた。
そして心の中でそっとつぶやいた。
『神さま、夢がかないました、ありがとうございます』


< 夢 > 完

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Comments

HABABIさん

読んでいただいてありがとうございます。
クリスマスには暖かいお話を書きたくなりますね。
春頃にも楽しいお話を書こうかと考えています。

素敵なクリスマスとお正月をお迎えください。


Posted by: よし | December 20, 2014 at 10:56 AM

よし様

今回もHotする話、ありがとうございました。
よいクリスマス、そして新年をお迎えください。

HABABI

Posted by: HABABI | December 20, 2014 at 07:00 AM

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