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October 28, 2014

「静夜」 第4回

 次の日曜日の午後、隼人がバイクでやってきた。
「いろいろ頂いてありがとうございます」玄関に出てきた誠治に頭を下げる。
「きたない家だけどまあ上がってください」誠治は彼をリビングへ連れて行き、真弓を呼んでお茶を出した。あいかわらず化粧もせず眼鏡をかけジャージ姿の真弓は、お茶を出すときに少しだけ彼の顔を見たが、すぐ自分の部屋に入って手話の練習を続けた。

 隼人はしばらくしゃべったあと、畑に行くという誠治の軽トラに乗り込み、野菜の収穫や軽トラへの積み込みを手伝った。
「取れたての野菜の匂いっていいですね」
「そうだよ、畑にいるだけで健康になれるからなぁ」
70歳を過ぎた誠治には、たくさんの野菜を軽々と軽トラに積み込んでいく若い男がまぶしい。背が高いので細く見えたが、Tシャツ1枚で作業する彼はがっしりとしたいい体格をしている。
隼人のおかげで作業が早く終わったので、誠治は彼に真弓のことを打ち明けた。
「そうですか・・・」隼人は気の毒そうな顔をしたがそれ以上言葉が出ない。
「君さえよかったら時々遊びに来てくれないだろうか」
「はい、じゃ次の日曜日もおじゃまします」

 約束通り次の日曜日の午後に隼人はやってきた。バイクの後ろにくくりつけた段ボール箱から小さな花束とケーキの箱を取り出し、母からです、と誠治に渡した。
「ありがとう、でもこれは、わしにじゃなくて真弓にだろうな」誠治は笑いながら真弓を呼んだ。自分の部屋から出てきた彼女は、花束を渡されて目を輝かせる。
彼が来ることを聞いていたからか、今日はちゃんと化粧をしてコンタクトをはめ、細めのジーンズをはいていた。
アナウンサー試験に通るだけあって、普段とは見違えるようだ。

「お茶を入れてくれないか。一緒にケーキを食べよう」
誠治の言葉に、真弓はリビングへ行き準備をする。
「普段は人が来ると逃げているんだが、ケーキの魅力に負けたようだな」誠治は、真弓が喜んでいるようなのでご機嫌だ。
「何でもいいです」と隼人が言ったので、真弓は自分の好きな紅茶を用意し、3人でテーブルについた。

誠治と真弓が並んだ前に隼人が座り、最初は誠治が彼から話を聞きだしていく。年齢から始まり、仕事、家庭状況などまるで身上調査のようだったが、隼人は真面目な顔をしながら明るくユーモアをまじえて答えていくので、いつしか真弓も彼の話に聞き入っていた。
今年で28歳になったこと。父親は平凡なサラリーマンで母親と3つ下の妹と4人家族だということ。父が鹿児島出身なので『隼人』という名前を付けたこと。大学を出て事務系の仕事が苦手なので流通関係の会社の工場で働いていること。

「狭いオフィスの中より広い現場を動き回る方が好きなんです」と快活に笑う。休みの日は、中型バイクで山道を走るのが好きなので、誠治の畑の横を通る県道をよく走り、たまたまバイクを止めて休んでいたらいつまでも動き出さない軽トラが見えたので近づいた、と話してくれた。

 彼女はいないのか、と誠治が訊くと、車を持っていないのと、デートしても女性が喜ぶような話が苦手なので、結局長続きしないと言う。学生時代はバイクレースに夢中になり、1ヶ月も相手にしなかったらその時付き合っていた彼女に、私とバイクとどっちが大事なの、と言われて別れたとのこと。
「そういうことを言われることがいやだ、と言ったらそれっきりでした」という隼人に、真弓は当然でしょ、といわんばかりの顔をした。彼女の知っている男たちとは全然違う。

今乗っているバイクは、動かなくなった古いバイクの部品をかき集めて再生したもので、そうやって動くようにしたバイクが、家にはあと2台あるという。
「バイクが恋人なのか」と誠治に言われて「そんなことないです。ずっと募集中のままなんですよ」と笑った

 隼人の話が終わったので次に誠治が自分のことを話し始めた。
両親はこの家で農業をしていたこと。3つ上の兄は勉強がよくできたので東京の大学を出て官庁に努め、そのまま東京に住んでいること。自分も大学を出て地元の小学校の先生をしていたが、定年を機に夫婦でこの家に移り住んだこと。そのころには年老いた両親はもう農家を続けられず、農協と相談して野菜畑だけを残していたこと。

やがて老父が逝ったので、兄と相談して老母を町の介護老人ホームにいれたこと。2年前に妻を病で亡くしてからは、一人でここに住んでいたことなどを淡々と語る。さすがに息子夫婦の事故の話はしなかったが、語り終えて、ただ一人の孫娘の横顔を慈しむように見た。

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