« ブログ小説のお知らせ | Main | 「静夜」 第2回 »

October 25, 2014

ブログ小説 「静夜」 第1回

 畑の横に停めた軽トラに野菜を積み終えて乗り込み、エンジンをかけようとしたがセルモーターが回らない。何回キーをひねってもダメだ。
「バッテリーもとうとう寿命か」JAFに電話すればこんな山の中でも来てくれるはずだが、あいにく携帯を持っていない。
誠治は、車を動かすことを諦めて積荷にブルーシートをかけた。
家までは3キロほどだから歩いて帰っても大したことはない。
ドアをロックして歩き出したとき、後ろからバイクが走って来て横で停まった。

「車を置いて帰られるのですか?」ヘルメットを外し、若い男が声をかけてきた。
「ああ、バッテリーがあがったみたいでな」
「ちょっと車を見てもいいですか?」
男は、断ってから軽トラの荷台の下を覗き込んだ。
「これからバイク屋で車を借りてきますからここで待っていてください。すぐに戻ってきます」
男はバイクで走り去り、しばらくすると軽トラに乗って戻ってきた。
助手席からブースターケーブルを出すと2台の軽トラのバッテリーをつなぐ。キーをひねるとすぐにエンジンがかかった。
「今はかかりましたが、一度止めるとまたかからなくなります。このまま車屋に行ってバッテリーを交換した方がいいですよ」
「そうだな。いつもの修理屋へ行くよ。本当にありがとう」
「すみません。僕もこの軽トラを返さなくちゃいけないので一緒に行っていただけませんか?バッテリーはそこでも交換できますよ」
「おお、そうか、そりゃ悪かったな」
バイクを置いたまま2台の軽トラックはバイク屋へ向かった。

バイク屋で新しいバッテリーに交換し、二人は誠治の軽トラで再び畑まで戻った。
「いや、本当にお世話になった。これはガソリン代にでも」と誠治が3000円を出す。
「やめてください。この程度はバイク仲間の常識です」男は頑として受け取らない。
「私は吉田誠治といいます。この辺で野菜を作って余生を送っている爺さんです。よかったら一度遊びに来てください。この道の3キロほど先にある古い家だからすぐに分かりますよ」
「僕、いや、私は伊藤隼人です。バイクでこの辺りをよく走っています。じゃ、失礼します」
男はバイクにまたがると一礼してヘルメットをかぶり走り去った。
「若いのによくできた男だ」誠治は彼を見送ったあと軽トラを発進させた。

 いつもより1時間も遅く家に帰ったので、孫の真弓が玄関の外に出て心配そうに待っていた。
「悪かったな。エンジンがかからなくて時間を食ってしまった。スマンスマン」
野菜を降ろすのは次の日にして、すぐに風呂に入ってから二人だけの食卓に着く。
真弓は、いつものようにビールと簡単なおつまみ類を誠治に出し、自分は先に食事を始めた。
誠治は、毎晩ビールから始まる晩酌を欠かさないからご飯を食べるのは最後だ。
「今日はいい男に会ったよ」グラスでビールを一杯飲んだ後、バッテリートラブルの件と伊藤という若い男の話を真弓に聞かせた。
真弓はいつものように黙って食べている。
「遊びにおいでと言ったが来るかな?」
真弓の顔を見ながら誠治が言っても返事はない。

|

« ブログ小説のお知らせ | Main | 「静夜」 第2回 »

ブログ小説」カテゴリの記事

Comments

HABABIさん
ありがとうございます
今回はかなりの大作(?)ですが最後までお付き合いいただけると光栄です。

Posted by: よし | October 26, 2014 at 09:49 AM

よし様

今回も、拝読出来ることを、大変嬉しく思います。

Posted by: HABABI | October 25, 2014 at 09:07 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« ブログ小説のお知らせ | Main | 「静夜」 第2回 »