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August 16, 2014

「最後の選択」 最終回

 子供たちが夕食を済ませた後の食卓で晩酌をしていると、妻が思い出したように言った。
「あなた、さっき私と出会う前にしゃがんで犬の相手をしてなかった?」
「えっ、俺は犬なんか知らないよ。人違いだろ」
「そうよね。薄茶色の大きな犬が誰かに『お手』をしてからあの狭い道に入っていったの。首輪もリードも付けてなかったけど飼い犬みたいだったわ」
「そういえば昔住んでいた家で大きな犬を飼っていたなぁ」

 小さい時、バイクにはねられて死にそうだった子犬を段ボール箱に入れて家に連れ帰った。
必死で手当てをしたら元気になり、反対する親に泣いてお願いして育てていたらレトリバーの雑種だったようで結構大きくなった。
一人っ子だった彼の弟として名前はジローとつけた。

 助けられた恩を知っているのだろうか、おとなしい犬だったが彼にはひときわ従順だった。いじめられて泣いて帰ると、すぐそばに来て慰めるように彼の手や顔をを泣きやむまでなめ続けた。

 毎日本当の兄弟のように遊んで育ったが、彼が小学6年生の時にジローは亡くなった。
父は「犬の寿命は12年くらいだからな。あきらめなさい」と言ったが、彼はその晩もう硬くなったジローの体をなでながら1時間近くも泣いた。

 彼が中学校に入ってから何度も引っ越しをしたあと10年前に今のマンションを買ったが、駅やその近くは昔とは様変わりしていて、路地の奥にあった古い家のことなどすっかり忘れていたのだ。
今、妻の話を聞いて穏やかな顔つきと優しい目をしたジローのことをはっきりと思いだした。

 次の朝、駅に行く手前で路地に入ると民家などは無く、広い更地があるだけだった。
「ここは先週でやっと古い家の取り壊しが終ってね。これから高層マンションが建つところです」工事監督と思しき男性が説明してくれた。
道に戻り、改札を通りながら彼は新しい人生が始まるのを感じた。


 == 「最後の選択」 完 ==

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Comments

HABABIさん
主人公は望んでいた別の人生を経験したのですが、結局元の人生で良かったのだということです。
男(ジロー)が彼の人生を変えたわけではないというのがミソです。
悪魔はいやですね(笑)

Posted by: よし | August 16, 2014 at 03:39 PM

今回も、楽しく読まさせて頂きました。
願いを叶えてくれるのが、悪魔ではなくて天使のワンちゃんで良かったです。

Posted by: HABABI | August 16, 2014 at 02:16 PM

u子さん

お盆の出来事ということでこういう物語にしてみました。
昔を振り返ったり後悔したりせずしっかり生きてさえいれば今が一番幸せなのだというテーマです。
最終回の落としどころにちょっと苦労しました。
ご先祖様ではなくワンちゃんだったというのがポイントですね。

Posted by: よし | August 16, 2014 at 11:18 AM

よしさん

読みました。どういう結末になるのかな、と思いましたが、ステキな終わり方でした。握手が手を握り合う形でなかった時は、あれっと思いましたが・・・
楽しませて頂きました。

Posted by: u子 | August 16, 2014 at 09:22 AM

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