クリスマスの贈り物 7
10分ほどで救急車が来た。
降りてきた隊員に倒れた状況を説明すると、さっさとストレッチャーに男を乗せて積み込もうとする。
「私も一緒に行きます」と言うと「ご家族ですか」と訊かれたので、「はい」と答えたら乗せてくれた。乗り込むときに歩道を見ると、イサムが怖い顔でこちらを見ている。
「早く出して!」心の中で叫ぶと同時に救急車はサイレンを鳴らしながら発進した。
15分ほど走って病院に着くと、ストレッチャーはすぐに検査室へ運び込まれた。当直の看護師が来て、改めて状況を聞かれたので、倒れたときの様子と家族ではないけれど心配なので付いて来たことを話すと、住所と名前を訊かれた。家族に連絡がつくまでしばらく待っていて欲しい、と言われる。
誰もいない受付のベンチに一人座り、落ち着いてくると今日の出来事が頭を駆け巡った。
「私、なんでこんなとこにいるんやろか」 あんな男のそばに居たくないから救急車に乗ったけれど、帰りは一人だ。
せっかくのイブの日。あのおじさんさえ倒れなかったら楽しく過ごせたはず。そう思うと、後悔の心が芽生えだす。
イサムだって私と過ごすために計画してたんだから、怒って当たり前だ。食事して、話が盛り上がって、酔いも回っていいムードになったら私もその気になっていたかもしれない。
いや、もう今日の出来事はすっぱり忘れよう。
明日のクリスマスは年賀状を書こう。
しかし、一人でクリスマスを過ごした後、30歳を迎えた日の出勤はあまりにも寂しい。
「私ってどうしていつもこうなるんやろ」口に出すと、思わず涙があふれ出た。
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