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December 12, 2013

クリスマスの贈り物 5

 イサムは、黒いジャケットに、胸元を開けたピンクのシャツと細身のジーンズという姿で立っていた。ピンクのシャツに一瞬ひいたけれど、顔には出さず笑顔で挨拶した。
 少し歩いてからしゃれたカフェへ入る。飲み物が来てから好きな音楽のことを訊かれたので、ワーグナーです、と答えてやった。

『ワルキューレの騎行』以来クラシックが好きになった。でも、さすがにワーグナーは長くて重いので普通のオペラを聴くと、ほとんどのヒロインが死ぬことが分かる。
「なんで、女ばっかり死ななあかんの」と調べたら『ドン・ジョバンニ』では、女たらしの男が地獄へ落ちることを知った。「ざまあみろ」や。
『レオノ-レ』は、妻が男の格好をして敵の城へ潜入し、夫を救うというストーリーに、やっぱりベートーヴェンは偉い、と改めて尊敬した。

 でも、勤めてからは時間もないので普段はポップスを聴いている。中島みゆきの、男に媚びない歌がいいな、と思っているが最近は、西野カナもお気に入りだ。歌もいいけど、あのもっちゃりした三重の言葉でのおしゃべりがいい。

 彼が「AKB48なんか、ええんとちゃう?」と訊く。一瞬「エッ」と思ったけれど「いえ、あんまり」と、おとなしく返事しておく。中島みゆき、とでも言ったら、少しは見る目が変わったのに、ホンマ残念な男や。
 彼は、音楽の話をあきらめて野球の話に切り替えた。
「好きな選手はだれ?やっぱり大和?」と訊く。
「大野さんです」
「はぁ??」
「昔、広島のピッチャーやった大野豊です」
 目が点になっている。
 42歳まで現役だった大野投手は、実績もさることながら、その渋い風貌が女子ソフトのメンバーからは結構人気があった。顧問の先生は「お前らの好みは渋すぎや」とあきれていた。

 5時を過ぎてから店を出た。そろそろレストランで食事かと考えると、おなかも空いていたので少しは楽しみな気分になる。外はもう暗くなったけれど、華やかなクリスマスイルミネーションが気持ちを明るくしてくれる。歩きながら取りとめのないおしゃべりをしていくうちに、少しずつ彼とも打ち解けていった。

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Comments

HABABIさん
仰るとおり、設定を考えながら物語を書いていくことは楽しいですね。
でも、ストーリーも重要ですが、後で矛盾が出ないように登場人物の属性をきちんと設定しておくことが大事だと思っています。
使い慣れた関西弁は細かいニュアンスの表現には便利ですが、その場の情景の表現は客観的な標準語にしています。
これからも彩の応援をよろしくお願いします。

Posted by: よし | December 12, 2013 at 08:58 PM

よしさん、こんばんは

興味深いことを始められましたね。
小説の出だしを作家がどう工夫しているか、情景描写、登場人物の性格等の描写とコントラスト、時代設定とその表現等々、書かれたものを読むときには、舞台裏まで興味を持つようになりました。
よしさんらしい確実なテンポでの語り口と視覚を意識した表現、会話における関西弁と標準語の使い分け等、それと男性から見た女性の心理描写を面白く読んでいます。HABABI

Posted by: HABABI | December 12, 2013 at 05:56 PM

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