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December 08, 2013

クリスマスの贈り物 1

「何が心配なん?」後ろも見ずに彩がドアを開けて出て行った。
「いや、何でもないけど」それだけ言うと父はリビングに戻る。
 12月24日の昼過ぎ、出かけようとする娘につい「気をつけてな」と言ったら、何が気に障ったのか機嫌悪く切り返されてしまった。

 伊藤 彩(いとう あや)今月の26日で30歳になる。
 最近、両親の顔を見ると何か言いたそうにしていることがよくある。お気持ちはよく分かっておりますよ、と思っている。
 短大を出て勤めてからもう10年になる。彼がいなかったわけではないが、1年以上続いたことが無い。28歳になったときはさすがに少し焦ったが、いくらでも出現してくる二十歳の娘っ子とは違うという自負もある。
 化粧もあっさりと仕上げるし、髪の毛も染めずに肩から少し下の辺りにして、軽くパーマを当てる程度だ。ギラリと光るような口紅を見ると、焼肉を食べた後みたいや、と思う。
 小さいときから活発な遊びが好きで、母が勧めるピアノも断固拒否し、男の子に混じってボールを蹴って遊んでいた。4歳のときに出来た弟は、姉に似ずおとなしく、公園に遊びに行くときはいつも姉の陰に隠れるようにしていた。
「神様がつけ間違えたんと違うか」よく父が言った。今から考えると、あれはセクハラやと思う。親でなかったら訴えてるとこや。

 中学生になっても相変わらず性格は男っぽく、2年生のとき苛められている男子を助けたこともあった。少しどもり気味の男子生徒がからかわれ、言い返せないのをいいことに、何人かに小突かれたあげく蹴られようとしていたのを見たとき、プチッと切れた。
「あんたら、いい加減にしとき」と間に入ったら、「うるさい!女は引っ込んどれ」と肩を突かれたので、わざと大げさに後ろに倒れるようにして、教卓をつかんでひっくり返してやった。
 ドカーンという派手な音がした後、隣の部屋から音楽の女先生が飛び込んできた。
 彩が床に倒れている姿を見て動転する。「あんたら、女の子に暴力ふるって!」飛び出していった女先生の替わりに、組長と呼ばれた恐ろしい体育の教師が入ってきて、男子生徒は連行されていった。そのあと事情聴取で呼ばれたときは、自分で足が滑ったんです、とかばってやったのでその生徒は苛めた男子にあやまることで開放された。
 あとで、彩はからかわれた男子に近づいて言った。「あんたも男やったら、やり返さなあかんやないの!」弱いものいじめは大嫌いだ。しかし自分で自分を守ろうとしない人間も情無いと思う。
そのときに付いたあだ名が『ワルキューレ』だ。

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