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October 06, 2013

宮本 輝 「にぎやかな天地」

2008年4月 中央公論新社 刊
特別装丁の豪華限定本の編集・製作を仕事にしている主人公が、懇意にしてくれるクライアントから日本の伝統的な発酵食品の本の作成を依頼される。
和歌山の醤油、熟鮓、鹿児島の鰹節、滋賀県の鮒鮓など友人の写真家と共に各地へ取材に行き、工程を進めるうちに他の仕事も入り同時に知人、他人の生と死に係わるさまざまな人生模様を知っていく。
そういう彼自身も生まれる前に不幸な事故で父親を亡くしており、亡くなった祖母は母を連れて離婚した過去を持つ。
よく仕事を紹介してくれる穏やかな料理研究家は、小さいときに父親が心中事件を起こして亡くなっているし、クライアントも事故で家族を亡くして何年も死んだように生きていた事実がある。
この本の核となるテーマは「生と死」なのだ。
彼は仕事を進めるうちに、人間の短くも複雑な生に比べて、食品の醗酵を司る無数の微生物はその土地、その生産場所特有の環境に永年住み続けてひたすら働き続けていることを知る。
若いのに穏やかで健康的な考えを持つ主人公と、善人ばかりと言ってもよい人間関係のなかで、人生とは、仕事とは、愛とは、そして死とは、など示唆されることが非常に多い小説。
ただ、恋愛にはかなりストイックな主人公とうらはらに、仕事の場に娘のような若い恋人を連れてくる男とはいかがなものか。せっかくの真摯なストーリーに幾分水をさす印象を持ってしまった。
彼の仕事場は京都、実家が西宮の甲陽園なので、主要な登場人物はほぼ純正の京阪神言葉を使うため私自身何のストレスも無く読みきったけれど、関西圏以外の方にはまどろっこしいかもしれない。
私達も住んでいた苦楽園口周辺が登場するのが懐かしいが、阪神淡路大震災の模様も生々しく描かれているのが辛い。

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